~貸倒損失の適用要件について~

 取引先の倒産などにより、売掛金や貸付金などが回収できなくなった場合には、貸倒損失の処理を行う必要があります。しかし、貸倒損失の計上にあたっては、会社の恣意性が介入する余地があることから、税法ではその要件が厳格に定められています。

 今月号では、この貸倒損失の適用要件についてご紹介していきたいと思います。

 

 1.貸倒損失の税務上の適用要件とは?

  貸倒損失の適用要件については、大きく3つに区分して規定されています。

 

   ①法律上の貸倒れ

   法律上の貸倒れとは、債権の全部または一部が法的手続きにより切り捨てられた場合であり、法人が

  貸倒損失として経理処理(損金経理)しているか否かにかかわらず、必ず損金(会計上の費用に近いも

  のです)の額に算入されるものです。

   具体的には、

   ・会社更生法、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額

   ・法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定、行政機関や金融機関などのあっせん

   による協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額

   ・債務者の債務超過の状態が相当期間(一般的には3~5年程度)継続し、その金銭債権の弁済を受け

   ることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

 

  ②事実上の貸倒れ

   事実上の貸倒れとは、債権の全額が債務者の資産状況、支払能力等から総合的に見て、経済的に無価

  値となり回収不能となった場合であり、法人が金銭債権(売掛金、貸付金等)の全額を貸倒損失として

  損金経理したときに限り、損金の額に算入されるものです。

   ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。

 

  ③形式上の貸倒れ

   形式上の貸倒れとは、売掛債権が債務者との取引を停止して1年以上経過した場合等で、法人がその

  売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒損失として損金経理したときに限り、損金の額に算入

  されるものです。

   具体的には、

   ・継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を

   停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経

   過したとき(その売掛債権について担保物のある場合は除きます)

    なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱

   の適用はありません。

   ・同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、督促しても弁済がない場合

    →簡単に説明しますと、支払いを求めても弁済がない売上債権のうち、債権額よりも回収するため

   の費用が多くなる債権については、貸倒損失の計上を認めるということです。

 

  2.このようなケースは注意が必要です!

   ① 新規取引先との取引が単発で取引を停止した場合

    新たな顧客先と継続的な取引を計画していたが、その顧客先の資産状況、支払能力が急激に悪化し

   たため取引を1回だけ行っただけで、その売掛金の返済もなされないまま、取引を停止した後1年以

   上経過したので、貸倒損失を計上した。

    →この場合は、「継続的な取引を行っていた債務者」には該当しないことから適用がないことに留意

   する必要があります。

    ② 価格交渉が合意に至らないまま取引を停止した場合

    長年の得意先である取引先から値引き交渉があったが、価格交渉が合意に至らなかったため、その

   売掛金の返済もされないまま、取引先との取引を停止した時以後1年以上経過したので、貸倒損失を

   計上した。

    →この取引の停止とは、債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためにその後の取引を

   停止するに至った場合に適用があるため、価格が合意に至らなかった場合には適用がないことに留意

   する必要があります。